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撮影 Satoshi Shigeta
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Respect the Artist
ミヤケマイ
Mai Miyake
日本人の繊細な美意識や感覚を、工芸から人工知能のようなテクノロジーまでを手工芸品とし同列に扱い、物事の本質を問う作品を主体とする。既存のジャンルを問わずに天衣無縫に制作発表。主な展覧会では、金沢21世紀美術館、釜山市美術館、OPAMさいたま国際芸術祭2020、ポーラ美術館、メゾンエルメス、水戸芸術館、千葉市美術館ほか多数。
http://www.maimiyake.com
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ミヤケマイに会いに、滋賀を訪れた。彼女のアトリエ兼住まいは、地元の商店街を抜けた神社の参道沿いにある。元社屋だったという3階建ての建物は、窓外の山々に見守られ、気の良い風が通っている。彼女の朝は早い。私が到着した翌日も、起き抜けに1階のガーデンでハーブや野菜たちの世話をして、植木を荒らす野良猫との攻防を繰り広げていた。私は寝惚け眼をこすり、なんと詩的な生活なのか、と暫く傍観していたが、「この子は美味しいよ」というミントを千切って食べたりしながら、彼女の習慣を少しばかり体験させてもらった。ひんやりと冷たい土や水分を含んだ葉の手触りに、遠い初夏の記憶が蘇る。
2階の仕事場では、珍しい図柄の描かれた異国の布や紙の端切れ、年代物のグラスの破片など、さまざまなものが蒐集されていた。所狭しと並ぶ引き出しやボックスを広げ、ミヤケから紹介されると、あらゆる素材の声が聞こえ、それらが辿ってきた物語を追体験できる気がした。そんなことを想いながら、今回の展覧会のために制作中の作品を見せてもらった。
――ミヤケマイは、日本の美意識や手法に立脚しながら、骨董や工芸、現代美術やデザイン等といった既存の区分に捉われず、あらゆる媒体を用いて物事の本質を表現する作家として知られており、その作品は、今が歴史の地続きであることを感じさせてくれる。
例えば《白鳥の湖》をはじめとする掛け軸の作品は、遠くから一見すると伝統的な姿であるが、表具のうち軸先には西洋渡りのアンティークガラスや陶器が、一文字(いちもんじ)にはレースがあしらわれている。時代の傾向や用途の定義を超えた素材との融合が、物語を醸し、普遍的な美しさを提示する。千葉市美術館「とある美術館の夏休み」(2022)においてミヤケの作品として展示された伊藤若冲《鸚鵡図》さながら、数百年余の月日が経過したその日にも、観る者の目に鮮やかに映り続けるだろう。
また、《エデンの西》は、鳥かごの中の絵画(画)に対して、関連することば(書)が添えられた、一体のインスタレーションである。これには日本美術の「書画」の方法が用いられているが、書にあたる文字の部分は、和紙に筆で綴られた漢詩ではなく、方眼紙に鉛筆で、女性と社会の関係性を示唆する英単語が記されている。所謂クロスワードのような様式は、新聞という報道機関の存在を感じさせるが、美しい鳥たちは、開かないかご(変わらない社会)での無力さを前に、パズルで持て余した時間をつぶす”誰か”なのだろうか。愛らしい手書きの文字ながら、その筆致からは、自らのことばで正義を訴える覚悟を孕んだ、現代を生きる強い女性像を感じ取ることもできる。
諺や慣用句では、主に動植物が人間の比喩として、古の知恵を代弁する。本展においても白鳥をはじめとする鳥の姿が登場し、作品に意味を付加するが、自然と人間の関係性において全く対等な感じのするミヤケの場合、それらはメタファーであるとともに、彼女や彼女の友人のような存在にも思えてならない――
琵琶湖のほとりで過ごした穏やかな午後、気づくと私は東京での暮らしについてとうとうと話しながら泣いていた。真っ直ぐで正しい彼女や作品を見ていると、学校帰りに桑の実を食べていた頃のような飾らない自分を愛したいと思えて、とても有難いのだった。
インディペンデントキュレーター
板橋 令子
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撮影 Satoshi Shigeta
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